【静学スタイルの真髄】才能ある選手は路地裏から突然、生まれる。元サッカー部監督・井田勝通の教え!

選手権で準優勝した半年後の昭和52年の8月だった。清水FCの南米遠征でモルンビー(サンパウロFCのホームスタジアム)へ行くことになって、俺はセルジオ越後に同行したんだ

井田勝通| Photo by 佐藤博之

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■草サッカーのスタイルを取り入れた指導

 そのブラジルで、18歳のカレッカ(元ブラジル代表)のデビュー戦を見た。スター候補生をスタジアムで見る一方で、路地裏の少年たちとも触れ合った。

 正直、子供たちはそんなにうまくなかった。この時代にクラブに入ってサッカーをするのは、富裕層かプロの可能性がある一握りの子供だけ。大半の少年が道路や公園を裸足で駆け回っていた。そういう子たちは日本より格段にレベルが高いのかと思っていたけど、そうではなかった。

「なんだ、ストリートや草サッカーのような遊びのサッカーであった。日本……いや清水FCの子供の方がうまくて強いじゃないか」
 正直、最初はそういう感想を持った。
 だけど、2度目にブラジルを訪れた時、その考えは一瞬にして消え去った。

 向こうの子たちは、大人の知恵を教え込まれてはいないんだと。彼らは組織的な動きやパスワーク、スペースに走りこんでゴールを狙うといった戦術面を教えられていないのだ。単に未熟だっただけ。自分たちで考えながらテクニックを身につけているから、潜在能力はずっと日本人よりずっと上だったんだ。だから、15歳くらいになると、姿勢とか戦い方が違ってくる。

 その年代になると、日本人はブラジル人に歯が立たなくなるんだ。
 日本の場合、野菜の促成栽培と同じで、水を撒いて、肥料をやって、太陽の光をふんだんに照らして、真っ直ぐなキュウリや形のいいナスを作るかのようにサッカー選手を育てようとしている。

 ブラジルの場合はそういうことをせずに、森林に生えたマンゴーやパイナップル、バナナ、パパイヤのように、子供たちの成長を自然に任せている。結果として、真っ直ぐできれいな形のものばかりではなくて、いろいろな面白い形の果物や野菜が取れるし、栄養も豊富だ。
 小さい時は促成栽培で形よく育った子供の方がいいような気がするけど、15歳を過ぎて大人に近づけば近づくほど、ブラジルの育て方がより優まさっていると分かってくる。 

 実際、ストリートサッカーをしていた子供が突如として大化けすることはあるんだ。
 ペレやロマーリオ、ロナウド、アドリアーノ、ネイマールにしても、クラブで指導者から手取り足取り教わるような子供時代を過ごしていない。

 俺自身、日本にいてもブラジルに近いやり方で子供たちをじっくり成長させていこうと強く思った。そして、今でも小学生には裸足でボールを扱う、草サッカーのスタイルを指導に取り入れている。

井田勝通(いだ・まさみち)
静岡学園サッカー部元監督。1972年、静岡学園サッカー部監督に就任し、2009年に退任するまでに高校サッカー選手権優勝や60人以上のJリーガーを輩出するなど、多くの業績を残した。技術に特化しながら”個”を伸ばす育成は”静学スタイル”として知れ渡り、プロ選手や、指導者に受け継がれている。退任後も、静岡学園中高サッカー部エキスパートアドバイザーやNPO法人岡部スポーツクラブGMを務めている。

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