ドリブラーはなぜ集うのか? 「聖和学園」が全国に残した記憶【連載:第1回】
第94回全国高校サッカー選手権大会ではピッチの選手が魅せるドリブルが話題をよんだ。宮城県の聖和学園における教えとはどのようなものか。
スポンサーリンク全国からドリブラーが集う聖和学園 Photo by Takeshi Kobayashi
「狭いところへ入って行け!」
「ボールを持つのが嫌いなのか!」
加見成司監督の厳しい檄が飛ぶ聖和学園高男子サッカー部の練習風景だ。よくある2組に分かれた小グリッドでの10対10のボールまわしの練習。ボールに向かって多くの選手が固まり、狭い正方形のグリッドの中でさらなる密集ができる。そしてボールを持った選手はその密集の中のわずかなスペースをドリブルで抜いて行こうと試みる。ドリブル、個人技にこだわる聖和学園らしさがこうした練習一つにも表れている。
宮城県仙台市の聖和学園は女子校であったが、2003年共学化。長らく女子サッカー部が全国的な強豪として知られ、女子サッカー部でコーチを務めていた加見監督があらたに立ち上がった男子サッカー部の監督に就任したのだった。それから13年の間にプリンスリーグ東北優勝1回、高校総体出場2回、高校選手権出場3回。全くのゼロからスタートしたチームは東北、全国の強豪へと短期間で成長を遂げた。
加見監督が就任以来一貫して取り組んでいるのは、ドリブルで仕掛けるサッカー。ボールを持ったら、どのポジションの選手でもはじめの選択肢はドリブルだ。
ボールを持っている選手がドリブルしやすいように、周りの選手はディフェンダーを引きつけ、正確にボールがつながるパスコースをつくる。必然的に密集のなかで選手同士の距離は近くなる。相手が人数をかけて守るなか、どんなに狭いスペースでもドリブルで進入することをためらうことはない。
「世界に通用するには技術が無くてはならない。2人、3人に囲まれてもドリブルで抜いて行く技術が無ければ世界で通用しない」(加見監督)
加見監督は就任以来全く崩さずにこうした指導を続けてきた。なぜここまでドリブルにこだわるのか。そこにかつて名古屋でストイコビッチをはじめとする圧倒的な個人技を武器とする選手に出会い、指導者転身後、ドリブルに魅せられた人との出会いが運命を決定づけている。
ブレずに、ドリブルサッカーを貫き続けて迎えた2011年、聖和学園はついに高校総体と高校選手権という全国の舞台を踏んだ。